「iDeCoの一時金を先に受け取って、5年空けてから退職金をもらうと得らしい」。50代でこの話を聞いたことがある人は多いはずです。ところが、その5年が10年に変わりました。
この記事では、国税庁の資料に書かれている判定ルールを原文で確認したうえで、「自分は何年空ける必要があるのか」を受取順から判定する手順だけに絞って整理します。税額そのものの計算は別記事に譲ります。
※本記事は2026年9月時点で公表されている法令・国税庁資料に基づく一般的な説明です。個別の税額を保証するものではなく、具体的な判断は勤務先の担当部署・運営管理機関・税理士にご確認ください。





結論:見るのは「どちらが先か」と「いつ受け取ったか」の2点だけ
先に答えを置きます。確認すべきことは2つだけです。
- iDeCoの一時金と退職金、どちらを先に受け取るのか
- 先に受け取るほうが、2026年1月1日より前か後か
この2点が決まれば、自分に適用される「空けるべき年数」が決まります。逆に言えば、年数だけを覚えていても、順番と時期が分からなければ判定できません。
iDeCoが先なら9年、退職金が先なら19年で見る
退職所得控除は、受け取るたびに満額使えるわけではありません。過去に受け取った退職手当等と勤続期間が重なっていると、その重なった分が控除から差し引かれます(重複排除)。その「過去をどこまで遡って見るか」が、順番によって違います。
| 受け取る順番 | 遡って見る期間 | 通称 |
|---|---|---|
| iDeCo一時金が先 → 退職金が後 | 退職金を受け取る年の前年以前9年内 | 10年ルール(新) |
| 退職金が先 → iDeCo一時金が後 | iDeCoを受け取る年の前年以前19年内 | 20年ルール(従来どおり) |
| 退職金 → 退職金(会社を2回) | 後の退職金を受け取る年の前年以前4年内 | 5年ルール(従来どおり) |
改正で変わったのは1行目だけです。2行目・3行目は従来のままです。
2025年までに受け取ったiDeCo一時金は、いまも「4年内」のまま
ここが最も見落とされる点です。新しい9年内の判定が使われるのは、2026年1月1日以後に支払を受けた老齢一時金に限られます。
つまり、2025年12月までにiDeCoの一時金を受け取り済みの人は、いまも従来どおり「前年以前4年内」で判定されます。「10年ルールになったから自分も10年空けないと」と慌てる必要はありません。




何がどう変わったのか|前年以前4年内 → 9年内
国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」では、今回の改正がこう説明されています。
老齢一時金(確定拠出年金法の老齢給付金として支給される一時金をいいます。)以外の退職手当等の支払を受ける年(以下「受給年」といいます。)の前年以前9年内に老齢一時金(令和8年1月1日以後に支払を受けたものに限ります。)の支払を受けた場合には、次に掲げる退職手当等が退職所得控除額の計算における勤続期間等の重複排除の特例の対象とされました。
そして対象になる退職手当等として、次の2つが挙げられています。
- 令和8年1月1日以後に支払を受けた退職手当等であって、受給年の前年以前9年内に支払を受けたもの
- 令和8年1月1日前に支払を受けた退職手当等であって、受給年の前年以前4年内に支払を受けたもの
「限ります」という一語が、この改正の射程を決めています。引き金になるのは2026年1月1日以後に受け取ったiDeCo等の一時金だけです。あわせて、老齢一時金に係る「退職所得の受給に関する申告書」の保存期間が7年から10年に延長されました。9年前まで遡って確認する必要が出たことへの対応です。





受取順の3パターン早見表
自分がどれに当たるかを、先に決めてしまいましょう。
パターンA:会社の退職金を2回受け取る(前年以前4年内)
転職して、前職と現職の両方から退職金を受け取るケースです。後の退職金を受け取る年の前年以前4年内に前の退職金があると、勤続期間の重なった部分が控除から外れます。50代の転職では、この形がいちばん多く起こります。
パターンB:iDeCoが先 → 退職金が後(前年以前9年内)
今回の改正で判定が広がったのがここです。60歳でiDeCoの一時金を受け取り、その後に会社の退職金を受け取る人が該当します。「5年空ければセーフ」は、2026年以後の受取には通用しません。
パターンC:退職金が先 → iDeCoが後(前年以前19年内)
先に会社を辞めて退職金を受け取り、後からiDeCoを一時金で受け取る形です。こちらは以前から前年以前19年内という長い判定で、今回の改正では変わっていません。実質的に「ずらして避ける」ことは難しい設計です。




50代が実際に確認する4ステップ
ステップ1・2:受け取る「年」を書き出し、2026年以降かを見る
退職金の受取予定年と、iDeCoの一時金の受取予定年(または受取済みの年)を西暦で書き出します。月ではなく年で判定します。iDeCoの受取が2026年以降なら新しい9年内、2025年以前なら従来の4年内。ここで適用ルールが分岐します。
ステップ3:勤続期間が重なっているかを見る
重複排除の対象になるのは、あくまで期間が重なっている部分です。iDeCo側で勤続期間に当たるのは掛金を拠出していた期間(加入者期間)で、記録は運営管理機関で確認できます。重なる期間に1年未満の端数があるときは、切り捨てて年数を数えます。


ステップ4:退職金規程で「受け取れる時期」の選択肢を確認する
順番を変えられるかどうかは、制度側の選択肢次第です。受取時期を選べない制度なら、そもそも待つという打ち手は存在しません。就業規則・退職金規程・企業年金の規約を先に確認してください。


モデルケースで見る(前提を置いた試算)
数字を1つ置いてみます。あくまで前提を置いた仮の例であり、実際の税額を示すものではありません。
ケース:60歳でiDeCo、65歳で退職金を受け取ると何が起きるか
前提:1990年4月入社〜2031年3月に退職(勤続41年)/iDeCoの掛金拠出は2016年1月〜2026年3月(10年3か月)/iDeCo一時金を2026年(60歳)に受取/退職金を2031年(65歳)に受取。
- 勤続41年の退職所得控除額=800万円+70万円×(41年−20年)=2,270万円
- 退職金の受給年2031年の前年以前9年内=2022年〜2030年。ここに2026年のiDeCo受取が入る=パターンBに該当
- 重なる期間=iDeCo拠出期間と勤続期間の重複10年3か月 → 端数切捨てで10年
- 差し引かれる額=40万円×10年=400万円/控除額は2,270万円 → 1,870万円
改正前の判定(前年以前4年内)であれば、2031年から見た4年内は2027年〜2030年なので2026年の受取は入らず、控除は2,270万円のままでした。同じ順番・同じ年の受け取りでも、制度改正だけで控除枠が400万円変わるという構図です。
控除が400万円縮むと、課税対象になる退職所得はその2分の1にあたる200万円増えます。実際の税額は他の条件でも変わるため、金額の確定は勤務先か税理士に確認してください。







よくある誤解3つ
重複排除は「控除がゼロになる」ではない
差し引かれるのは重なっている期間に対応する分だけです。上の例でも2,270万円が1,870万円になるだけで、控除そのものが消えるわけではありません。「調整されるなら意味がない」と早合点しないでください。
「10年ルール」は全員に効くわけではない
引き金は2026年1月1日以後のiDeCo一時金の受取です。順番が逆(退職金が先)の人、すでに2025年までに受け取った人は、それぞれ別の判定になります。見出しの年数だけを持ち帰らないことが、この論点では特に重要です。




受取時期を動かせない人がとれる、もう一つの選択肢
受取順を動かして控除枠を守れる人は限られます。制度で時期が決まっている、10年も待てない——その場合に残る打ち手は、働く期間と年収のほうを設計し直すことです。退職金の受取時期は「いつ辞めるか」と直結し、それは次の勤め先の選択肢の数で決まります。控除枠の400万円を気にする前に、年収レンジの選択肢を先に見ておくほうが判断材料としては大きいはずです。




よくある質問
Q. iDeCoを年金形式で受け取れば、この話は関係なくなりますか?
退職所得ではなく雑所得(公的年金等)として扱われるため、退職所得控除の重複排除からは外れます。ただし公的年金等控除や社会保険料の扱いが変わるので、有利不利は別の比較になります。
Q. 前職の退職金を10年前に受け取っています。関係しますか?
退職金どうしの判定は前年以前4年内のままで、今回の改正の対象外です。10年前であれば重複排除の対象になりません。
Q. 「退職所得の受給に関する申告書」を出し忘れるとどうなりますか?
提出がないと一律20.42%の源泉徴収となり、確定申告での精算が必要になります。受取のたびに提出されているか確認してください。なお、何年空けるべきかの最終判断は、勤続期間の重なり方や制度の種類で変わります。受取年を書き出したうえで勤務先の担当部署と税理士に確認してください。
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まとめ
退職所得控除の重複判定は、iDeCoの一時金が先の場合に限り「前年以前4年内」から「前年以前9年内」へ広がりました。引き金になるのは2026年1月1日以後に受け取った老齢一時金だけで、2025年までの受取は従来どおりです。
退職金が先・iDeCoが後なら前年以前19年内、退職金どうしなら前年以前4年内。年数を覚えるのではなく、順番と受取年から表を引く——手順はそれだけです。そして受取時期を自由に動かせる人はそう多くありません。動かせないなら、税ではなく働く期間と年収のほうを設計し直す。それが50代にとって現実的な次の一手です。
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最後に、今日やることを1つだけ。iDeCoの一時金を受け取る(受け取った)年と、退職金を受け取る年を、西暦で紙に2行だけ書いてください。その2行があれば、勤務先の担当者にも税理士にも、5分で正確な答えを出してもらえます。



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