退職金の見込額が書かれた紙を渡されて、最初に浮かぶのはたぶん同じ問いです。「この額面から、税金でいくら持っていかれるのか」。ここが分からないままだと、退職時期も、辞めた後の生活設計も決められません。
この記事では、勤続年数別の早見表と、3ステップの計算手順を先に出します。そのうえで、退職の時期を会社に伝える前に確認しておく5項目をまとめます。
※本記事の税制は2026年8月時点で国税庁・総務省の公開情報を確認して書いています。金額の判定は個別事情で変わります。最終的な判断は必ず勤務先の担当部署・所轄の税務署・税理士にご確認ください(本記事は税務相談ではありません)。
結論|退職金の税金は3ステップで出る。多くの50代は思ったより軽い
先に答えを書きます。退職金の税金は、次の3ステップで計算します。
- 勤続年数から「退職所得控除額」を出し、退職金から引く
- 残った額を2分の1にする(これが課税退職所得金額)
- その額に所得税の税率と、住民税10%をかける
退職金は長年の勤務に対する報償という性格から、給与や賞与とは別の、かなり手厚い扱いになっています。控除で大きく削ったうえに、さらに残りを半分にしてから税率をかける。この「控除」と「2分の1」が二重にかかるため、額面の割に税額は小さくなります。
実際、勤続25年で退職金1,000万円なら税金はゼロです。たとえば勤続25年の場合、退職所得控除は1,150万円です。退職金が1,000万円なら控除の枠に収まり、所得税も住民税もかかりません。「退職金には重い税金がかかる」という漠然とした不安は、多くのケースで実態とずれています。



【早見表①】勤続年数別・退職所得控除額(ここまでは非課税)
まず自分の勤続年数の行を見てください。この金額までなら、退職金に税金はかかりません。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 10年 | 400万円 |
| 15年 | 600万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 21年 | 870万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 28年 | 1,360万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 33年 | 1,710万円 |
| 35年 | 1,850万円 |
| 38年 | 2,060万円 |
| 40年 | 2,200万円 |
勤続20年で「1年あたりの積み上がり」が40万円から70万円に変わる
国税庁の示す式は次の2本です。勤続20年以下は「40万円×勤続年数」(80万円に満たない場合は80万円)、20年超は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」。20年を超えたところから、控除枠の増えるスピードが一気に上がります。
1年未満の端数は切り上げ。ひと月ずれるだけで70万円動く
勤続20年3か月なら21年として計算します。1か月でも超えていれば1年分(70万円)の枠が増えるということです。退職日が月末か月初かで年数の区切りが変わるケースがあるので、就業規則上の勤続年数の数え方は総務に確認しておく価値があります。


【早見表②】退職金と勤続年数から、実際の税額を出す
控除を超えた場合の税額です。控除を引いた残りを2分の1にした「課税退職所得金額」に、所得税と住民税10%がかかります。
| 勤続年数 | 退職金(額面) | 所得税+住民税の目安 | 手取りの目安 |
|---|---|---|---|
| 25年 | 1,000万円 | 0円 | 1,000万円 |
| 25年 | 1,500万円 | 約26万円 | 約1,474万円 |
| 30年 | 1,800万円 | 約23万円 | 約1,777万円 |
| 30年 | 2,500万円 | 約108万円 | 約2,392万円 |
| 35年 | 2,500万円 | 約56万円 | 約2,444万円 |
| 38年 | 3,000万円 | 約99万円 | 約2,901万円 |
※復興特別所得税(2.1%)を含めた概算です。社会保険料は退職金からは引かれません。実額は他の所得や自治体の税率で変動します。
額面3,000万円でも負担は3%台。ただし勤続年数で倍近く変わる
表の一番下の行を見てください。勤続38年で3,000万円を受け取っても、税額は約99万円。額面に対しておよそ3.3%です。同じ3,000万円を給与としてもらった場合とは、比較にならない軽さになります。
一方で、勤続30年と35年で同じ2,500万円を受け取るケースを並べると、税額は約108万円と約56万円。差はおよそ52万円です。受け取る額が同じでも、勤続年数が5年違うだけでここまで開きます。


住民税は「その場で10%」。翌年にまとめて来るわけではない
退職金の住民税は、他の所得と分けて計算され、退職金の支払時にその場で差し引かれます(特別徴収)。税率は道府県民税4%+市町村民税6%の合計10%が標準です。
給与のように「翌年に請求が来る」形ではないので、退職金の分の住民税を翌年のために取り置く必要はありません。ここを誤解して、退職後の家計を必要以上に切り詰めてしまう人がいます。


手取りを守るために必ず出す1枚|退職所得の受給に関する申告書
ここが実務で一番落とし穴になるところです。「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出したかどうかで、天引きされる額がまるで変わります。
出さないと、額面に20.42%がそのまま天引きされる
国税庁のタックスアンサーNo.2732によれば、この申告書の提出を受けていない場合、支払者は退職手当等の支給額に一律20.42%をかけた額を源泉徴収することになっています。退職所得控除がまったく効かない状態です。
たとえば額面2,000万円なら、約408万円が引かれた形で振り込まれます。本来なら税金ゼロだったかもしれない人でも、です。払い過ぎた分は確定申告をすれば戻ってきますが、手元に戻るのは翌年になります。



退職時期を会社に伝える前に確認する5項目
計算式が分かったら、次は「いつ辞めるか」の判断材料です。以下の5つは、伝えてしまう前に確認しておくと選択肢が残ります。
①勤続年数が上がる直前になっていないか
すでに触れたとおり、1年未満の端数は切り上げです。あとひと月で年数が1つ上がるなら、控除が70万円増えます。まず自分の勤続年数の起算日を確認してください。
②iDeCo・企業型DCの一時金を先に受け取っていないか
ここは50代で特に注意が必要な論点です。確定拠出年金の老齢給付金を一時金で受け取ってから会社の退職金を受け取る場合、勤続期間の重複分について退職所得控除が調整される仕組みがあります。
そして国税庁「源泉徴収のあらまし(令和8年版)」の税制改正欄によれば、令和8年(2026年)1月1日以後に支払を受けた老齢一時金(確定拠出年金法の老齢給付金として支給される一時金)については、退職金側の判定期間が「前年以前9年内」に広がりました。従来の「前年以前4年内」から5年延びた形で、俗に「5年ルールが10年ルールになる」と言われているものです。この改正は令和8年分以後の所得税について適用されます。
iDeCoや企業型DCを持っていて、受け取り順を検討している方は、この記事の数字だけで判断しないでください。金額のインパクトが大きく、個別事情で結論が変わります。必ず税理士か所轄の税務署で確認してください。

③同じ年に2か所から退職金を受け取る予定はないか
同一年内に複数の退職手当等を受け取る場合、控除の計算は合算で行われます。転職先を早期退職する場合や、関連会社からも支給がある場合は、受け取る年をまたげるかどうかが論点になります。
④一時金と年金、どちらで受け取るか
退職金を年金形式で受け取ると、退職所得ではなく雑所得(公的年金等)として扱われ、計算がまったく別になります。どちらが有利かは、他の年金収入や社会保険料への影響まで見ないと決まりません。ここも早見表で片付く話ではない領域です。
⑤退職後の収入の見通しが立っているか
税額が想定より軽く済むと分かると、判断が「辞めるかどうか」に戻ってきます。ただし退職金の手取りが増えることと、次の収入が確保できることは別問題です。



よくある質問
割増退職金にも同じ控除が使える?
早期退職の募集などで上乗せされる割増分も、退職手当等として同じ退職所得の計算に含まれるのが一般的です。割増分だけ別枠で重く課税されるわけではありません。ただし支給の名目によって扱いが変わる可能性があるため、支給明細の項目名は確認してください。
確定申告は必要?
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、原則として退職金について確定申告は不要です。提出していない場合や、年の途中で退職して年末調整を受けていない場合は、確定申告で精算すると戻ってくることがあります。

会社都合と自己都合で税額は変わる?
退職所得の計算式そのものは、会社都合か自己都合かでは変わりません。ただし退職金の支給額(会社の規程による割増の有無)と、失業保険の給付日数や給付制限には大きな差が出ます。税額よりそちらの影響のほうが大きいケースが多いです。




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まとめ
退職金の税金は、「額面-退職所得控除」を2分の1にしてから税率をかける——この一本の流れで出ます。勤続年数が長いほど控除の枠が大きく、勤続25年で1,000万円程度なら税額はゼロ。額面3,000万円クラスでも負担は3%台にとどまります。
そのうえで、退職時期を伝える前に確認しておきたいのは次の3点です。
- 勤続年数が上がる直前ではないか(ひと月で控除70万円が動く)
- 「退職所得の受給に関する申告書」を必ず出す(出さないと額面の20.42%が天引きされる)
- iDeCo・企業型DCの受け取り順(2026年1月から判定期間が変わる。該当者は専門家に相談)
税額の見通しが立つと、判断の重心は「税金が怖い」から「その後どう働くか」に移ります。退職金の手取りと、次に得られる年収。この2つを並べたときに初めて、辞める・残るの判断ができます。数字を先に揃えるところから始めてください。
※本記事は2026年8月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。税制は改正されます。個別の税額判定・申告については、所轄の税務署または税理士にご相談ください。





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