社内に早期退職の募集が出た。割増退職金の金額を見て、心が少し動いた。でも同時に、「応じた人は、そのあとどうなったんだろう」という不安が消えない——この記事にたどり着いた方の多くが、いまその状態だと思います。
ここでは「思い切って良かった」という感想ではなく、応じたあとに何が起きて、どこで生活が苦しくなるのかを、制度と数字の側から整理します。募集期間には締切があります。判断そのものより先に、判断の材料をそろえましょう。
結論|その後を決めるのは割増額ではなく「無収入で持ちこたえられる月数」
最初に結論から書きます。早期退職に応じた50代のその後が分かれるのは、割増退職金が多かったか少なかったかではありません。次の収入が入るまでの空白を、何か月分そろえて辞めたかです。
年収が下がること自体より、「下がった状態が何年続くか」が家計を壊す
再就職して年収が2〜3割下がるのは、50代の転職では珍しいことではありません。問題はそこではなく、下がった年収を前提にした生活へ切り替える時期が遅れることです。退職金という一時金が口座にあるうちは、支出のサイズが以前のまま維持されがちで、気づいたときには取り崩しが想定より進んでいます。
「年収半減」は起こりうる。ただし起こる条件はかなりはっきりしている
半減までいくケースには共通点があります。業種も職種も同時に変える、役職手当が年収の柱になっていた、活動が長期化して条件を下げざるをえなくなった。逆に、同業・同職種で、かつ在職中から動き始めた人は、下げ幅が読める範囲に収まりやすいのが実感です。半減は「運が悪かった結果」ではなく、条件がそろったときに起きる現象だと考えてください。



いま早期退職はどれくらい起きているのか|2025年度は2万781人
「うちの会社だけ」と感じている方も多いのですが、数字を見ると状況が変わって見えます。
2025年度の募集人数は前年度の約2.5倍に急増している
東京商工リサーチの集計によると、2025年度に早期・希望退職を募集した上場企業は46社、募集人数は2万781人で、前年度(8,326人)の約2.5倍に急増しました。2009年度以降で4番目の高水準です(出典:東京商工リサーチ「2025年度の『早期・希望退職』は2万781人」2026年4月30日)。暦年ベースでも2025年は43社・1万7,875人で、リーマン・ショック以降3番目の水準でした。
約7割が黒字企業=「会社が傾いたから」とは限らない
同じ集計で、募集した企業のうち直近決算が黒字だった企業は約7割(32社・構成比69.5%)。いわゆる「黒字リストラ」です。応募者も50歳以上が中心で、三菱ケミカルグループでは50歳以上の1,273人が応募したと報じられています。つまりこれは業績不振の後始末ではなく、事業構造を入れ替えるために設計された募集だということです。


応じた50代のその後に起きやすい3つのパターン
相談内容や体験談を並べると、その後の進み方はおおむね3つに分かれます。自分がどれになりそうかを、先に見当づけておくのが有効です。
①同業・同職種で再就職|下げ幅は読める範囲に収まりやすい
いちばん着地が読めるルートです。役職手当や大企業の水準がなくなる分は下がりますが、経験がそのまま値段になるため、極端な落ち方は起きにくい。ただし「同じ仕事を、より小さい体制で回す」ことになる場合が多く、業務範囲は広がります。
②異業種・未経験に挑戦|半減もありうるし、時間もかかる
もっとも幅が出るルートです。年収が半分近くになる例はここに集中します。加えて、決まるまでの期間も長くなりがちで、収入減と空白期間の長期化が同時に来るのがつらいところ。挑戦を否定はしませんが、蓄えの厚さとセットで考える必要があります(線引きは50代の未経験職種チャレンジはどこまで可能?を参照)。
③しばらく働かない|取り崩しは想定より必ず速い
「少し休んでから考える」という選択です。悪くはないのですが、休む期間を先に決めていない場合だけは危険。社会保険料や住民税は退職後も請求が来ますし、前年の所得をもとに計算されるため、収入が消えた年に負担のピークが来ます。



試算①|割増を含めた退職金の「手取り」を出す
提示される金額は額面です。まず手取りに直すところから始めます。
退職所得控除があるので、額面と手取りの差は思ったより小さいことも多い
退職金は給与とは別枠で課税され、退職所得控除が使えます。勤続20年超であれば「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」が控除額で、控除後の金額をさらに1/2にしたものが課税対象です(勤続5年超の場合)。勤続30年なら控除額は1,500万円。数字を当てはめるだけなので、必ず自分の勤続年数で一度計算してください。
ただし「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと源泉徴収が重くなる
この申告書を勤務先に提出していないと、退職所得控除が適用されないまま一律の税率で源泉徴収されます。あとで確定申告すれば取り戻せますが、手元に入るタイミングが変わるため、資金計画がずれます。割増額そのものの相場感は早期退職の割増退職金はいくら?応じる前に確認する5項目で扱っています。


試算②|失業給付が「いつから・何日分」出るかを確認する
ここが早期退職でいちばん誤解の多い部分です。同じ「自分から辞める」でも、扱いが二通りに分かれます。
人員整理目的の希望退職募集なら「特定受給資格者」になりうる
ハローワークの基準では、人員整理を目的として離職前1年以内に導入され、募集期間が3か月以内である希望退職の募集に応じて離職した場合、特定受給資格者(いわゆる会社都合扱い)と判断されうるとされています(出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」)。この扱いになると給付制限がかからず、所定給付日数も長くなります。
常設の「早期退職優遇制度」に応募した場合は該当しない
一方、恒常的に設けられている早期退職優遇制度への応募は特定受給資格者に該当しません。この場合は自己都合離職として扱われ、2025年4月1日以降の離職では原則1か月の給付制限期間が置かれます(2025年3月31日以前の離職は原則2か月)。「割増が出る=会社都合」ではないということです。自社の募集がどちらの形式なのかは、募集要項の文言と導入時期で判断が変わるため、離職票を持ってハローワークで確認してください。



試算③|「持ちこたえられる月数」を出して、動く順番を決める
①と②が出たら、最後にこの一本の式に落とします。
計算式は「(退職金手取り+失業給付の総額+貯蓄)÷ 毎月の生活費」
分母の生活費には、住宅費・食費だけでなく、国民健康保険料(または任意継続の保険料)・国民年金保険料・住民税を必ず入れてください。会社が半分払っていた分と、給与天引きで見えていなかった分が、そのまま自己負担として現れます。ここを入れ忘れると、算出される月数が実態より2〜3割長く出ます。
出た月数が12か月未満なら、辞める前に活動を始めるのが安全側
50代の転職活動は、書類選考の通過率が低い時期をまたぐ前提で考える必要があります。持ちこたえられる月数が12を下回るなら、在職のまま活動を始めて、内定を見てから応募の可否を決めるのが順当です。募集の締切に間に合わないなら、それは「今回は見送る」という答えでもあります。


応じたあとに後悔しやすい3つの落とし穴
その後がうまくいかなかったケースには、判断そのものではなく手順に共通の躓きがあります。
- ①退職日を先に決めてしまう|割増の条件に釣られて日付を確定させると、活動期間を自分で削ることになります
- ②割増額の大きさだけで比べてしまう|比べるべきは「割増額」ではなく「割増額+失業給付−無収入期間の支出」の差引き
- ③家族に金額だけ伝えて期間を伝えない|金額は安心材料になりますが、半年後に「まだ決まらないの」となったとき、話が最初からになります


今週やること|7日間の行動リスト
- 1〜2日目|募集要項を読み、「人員整理目的か」「導入時期」「募集期間」の3点を書き出す
- 3日目|自分の勤続年数で退職所得控除を計算し、退職金の手取り概算を出す
- 4日目|会社の窓口で、健康保険(任意継続/国保)と住民税の退職後負担額を確認する
- 5日目|ハローワークで、自分の離職がどの区分になりうるかを相談する
- 6日目|「持ちこたえられる月数」を計算する(分母に社会保険料・住民税を入れる)
- 7日目|エージェントに登録し、今の経験に届く求人の年収レンジだけを見る
この7日間では、応じるか応じないかを決めなくて構いません。決めるための数字を6つそろえるのが目的です。

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まとめ
早期退職に応じた50代のその後は、割増額ではなく準備した月数で決まります。
- 年収半減は起こりうるが条件がある|業種と職種を同時に変える/役職手当が柱/活動の長期化
- 募集は増えている|2025年度は46社・2万781人で前年度の約2.5倍、うち約7割が黒字企業(東京商工リサーチ)
- 試算①|退職所得控除を使って、割増込みの手取りを出す
- 試算②|人員整理目的の希望退職か、常設の優遇制度かで失業給付の扱いが変わる
- 試算③|(手取り+給付+貯蓄)÷生活費。12か月未満なら在職のまま動く
締切が近いほど、金額の大きさだけが目に入ります。けれどあなたの生活を守るのは、割増額ではなく「あと何か月なら耐えられるか」という一つの数字です。今日はまず、募集要項の「募集期間」の行を探すところからで十分です。







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