親の介護、実家の事情、あるいは単純に「そろそろ地元に戻りたい」。50代でUターン転職を考え始めて、地元の求人票を開いた瞬間に手が止まった——提示されている年収が、いまの半分近い。そんな経験をした人は少なくありません。
この記事では「どこまで下がるのが普通か」を公的統計で押さえ、下げ幅を抑えるために効く3つの条件を整理します。慰めではなく、家族に説明できる数字を持ち帰るのが目的です。
※統計は2026年9月時点の最新版です。個別の年収を保証するものではなく、制度の適用可否は自治体・勤務先の一次情報でご確認ください。



結論:地域差は月7万円台、ただし「年齢の壁」のほうが大きい
先に答えを置きます。地域による賃金水準の差は月7万円台。一方で50代の転職は55歳を境に景色が反転します。地域より年齢のほうが効く、というのが結論です。
全国平均を超えているのは、たった4都府県だけ
厚生労働省「令和7年(2025)賃金構造基本統計調査」(2026年3月24日公表)によると、都道府県別の賃金で全国計(340.6千円)を上回ったのは東京都・神奈川県・愛知県・大阪府の4都府県のみ。最も高い東京都は418.3千円でした。
この「賃金」は2025年6月分の所定内給与額(残業代・賞与を含まない)の平均です。東京都と全国計の差は月77.7千円、12か月分で年間約93万円。これが「地域の水準差」の実像です。



「地域の平均」はあなたの下げ幅ではない
平均賃金は全業種・全年齢をならした数字で、あなたが応募する求人の給与テーブルとは別物です。地方でも本社機能を持つ企業や全国展開の企業は、都市部に近い水準で募集していることがあります。
避けたいのは、平均値を見て先に希望年収を下げてしまうこと。決め方は50代の転職で年収は維持できる?希望レンジの作り方で扱っています。
年齢で下げ幅が変わる|50代前半と55歳以降で線が引かれる
地域差より効くのが年齢です。厚生労働省「令和6年(2024)雇用動向調査」の転職入職者の賃金変動では、50代前半と後半で傾向がはっきり分かれます。
50〜54歳:まだ「増加」が「減少」を上回っている
50〜54歳で転職した人の内訳は増加39.0%/変わらない31.7%/減少28.2%。増加が減少を10.8ポイント上回り、転職者全体(増加40.5%/減少29.4%)と比べても遜色ありません。
つまり50代前半では「転職=年収が下がる」は統計的に正しくありません。約7割は維持か増加です。ただし1割以上の減少になった人も21.0%おり、リスクが無いわけではありません。
55〜59歳で逆転し、60代で崖になる
ところが55〜59歳では増加27.4%/変わらない33.6%/減少36.6%と順位が入れ替わり、減少が増加を9.2ポイント上回ります。しかも「1割以上の減少」が30.7%を占め、下げ幅も大きくなります。
60〜64歳ではさらに落ち込み減少60.9%(うち1割以上が53.9%)。賃金カーブ自体も、男性は55〜59歳の445.6千円をピークに60〜64歳で358.5千円へ下がります(賃金構造基本統計調査2025年)。



自分の移住先の相場を、10分で調べる手順
感覚ではなく数字で家族と話すために、移住先の相場は自分で引けるようにしておきます。手順は3ステップです。
求人票の額面と「県の平均」を並べて見る
- e-Stat(政府統計の総合窓口)で「賃金構造基本統計調査」を開き、都道府県別の一般労働者の所定内給与額を確認する
- その数字を12倍し、賞与(月収の3〜4か月分が目安)を足した概算年収を出す
- 実際に応募を検討している求人の提示レンジと並べ、上か下かを見る
提示額が県の平均を明らかに上回っていれば、その企業は地域相場ではなく職務内容で値付けしている可能性が高い。下回っていれば地域相場に張り付いた募集です。並べるだけで優先順位がつきます。


下げ幅を抑える3条件
ここからが本題です。下げ幅を抑えられている人には共通点があります。いずれも「地元で仕事を探す」の外側にある発想です。
条件1:都市部の取引先ごと移す
営業職・技術営業で最も効きます。地方企業が首都圏・関西圏の販路を欲しがっているとき、人脈と取引実績はそのまま値札になります。「地元に帰りたい人」ではなく「都市圏の販路を持ってくる人」として応募できるかで提示レンジが変わります。
職務経歴書に書くのは企業名ではなく「どの業界の、どの規模の顧客に、どういう座組みで入っていたか」。守秘義務に触れない粒度で、再現性が伝わるように書きます。
条件2:管理部門・広域求人を狙う
経理・人事・法務・情報システムなどの管理部門は、地方の事業所でも本社の給与テーブルで採用されることがあります。全国展開企業の地方拠点や、地方に本社を置く上場企業の管理部門は、地域相場から切り離されている場合が少なくありません。
ただしこの層の求人は一般の求人サイトに出てこないことが多いのが難点です。募集の存在自体が非公開で、エージェント経由でしか届きません。自力の検索では埋めきれない部分です。


条件3:リモート併用で「勤務地は地方・給与は本社水準」にする
3つ目はそもそも転職しないという選択肢です。勤務先にリモート勤務制度があるなら、住まいだけ地元に移し給与テーブルは本社のまま維持できる可能性があります。地域手当が減る分は下がりますが、転職に伴う下げ幅とは桁が違います。
後述する移住支援金にも「移住前の業務を引き続き行う(テレワーク)」の類型があり、転職を伴わない移住は制度上も想定されています。まず社内制度を確認するのが最も下げ幅の小さい道です。
年収以外で埋まる差|生活コストと移住支援金
額面だけで比べると判断を誤ります。手元に残るお金と一時金も計算に入れてください。
移住支援金は世帯最大100万円+子ども加算
内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」によると、支給額は世帯100万円以内(18歳未満の世帯員を帯同する場合は1人につき最大100万円を加算)、単身60万円以内で、都道府県が設定します。
ただし要件は厳しめです。移住元は「直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住または通勤」かつ「直近1年以上は東京23区に在住または通勤」が必要とされ、就業も道府県のマッチングサイト掲載求人への就業などが条件です。金額は自治体ごとに異なるため、必ず移住先の自治体ページで確認してください。
住居費の差は「年収換算」で家族に説明する
家賃・住宅ローン・駐車場代の差は、地域によっては年間で数十万円規模になります。差額を年収に読み替え「額面は下がるが、可処分ベースではいくら」の形にすると、家族との話し合いが感情論になりにくいのが利点です。
一方で、車が1台から2台になる、灯油代がかかるなど地方で増えるコストもあります。減る項目だけを並べないのが誠実な試算です。伝え方は50代の転職、家族にどう伝える?を参考にしてください。



Uターン転職で失敗しやすい3つの動き方
先に退職する・先に家を決める・先に希望額を下げる
後戻りが難しくなるのは、たいていこの3つです。
- 先に退職してから探す……在職中より足元を見られやすく、条件交渉のカードを失います
- 先に実家の建て替えや住宅購入を決める……勤務地の選択肢が地理的に固定され、条件2・条件3が使えなくなります
- 先に希望年収を下げて伝える……いったん出した数字は上がりません。下げるのは最後の交渉段階でいい
いずれも「腹をくくった」つもりの行動ですが、実際は交渉材料を先に捨てているだけということが起こります。順番を変えるだけの対策なので、ここは徹底してください。

よくある質問





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まとめ
地域による賃金水準の差は、東京都と全国計で月77.7千円(年換算で約93万円)。全国計を上回るのは東京・神奈川・愛知・大阪の4都府県だけです。「地方だから下がる」ではなく「4都府県から出ると水準が変わる」と捉えると判断がぶれません。
ただし、より大きく効くのは年齢です。50〜54歳は増加39.0%が減少28.2%を上回る一方、55〜59歳では減少36.6%が増加27.4%を上回って逆転します(雇用動向調査2024年)。動くタイミングが地域差より大きな変数です。
下げ幅を抑える条件は3つ。①都市部の取引先ごと移す ②管理部門・広域求人を狙う ③リモート併用で給与テーブルを維持する。いずれも地元の求人サイトを眺めているだけでは出会えません。
最後に、今日やることを1つだけ。勤務先のリモート勤務規程を開き、居住地の制限がどう書かれているかを確認してください。制限がなければ、あなたのUターンは「転職」ではなく「引っ越し」で済む可能性があります。いちばん下げ幅が小さい選択肢を、最初に潰さないことです。
出典
- 厚生労働省「令和7年(2025)賃金構造基本統計調査 結果の概況」都道府県別・年齢階級別にみた賃金(2026年3月24日公表/2026年9月確認)
- 厚生労働省「令和6年(2024)雇用動向調査 結果の概況」転職入職者の賃金変動状況(表6)(2026年9月確認)
- 内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」移住支援金の要件と支給額(2026年9月確認)





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