「AIが提案書を書く」というニュースを見るたび、自分がやってきた営業という仕事は、あと何年もつのだろうと考えてしまう。特に50代は、残りの職業人生が読める年齢だからこそ不安が具体的です。この記事では総務省「令和7年版 情報通信白書」とJILPT(労働政策研究・研修機構)の労働者アンケートという一次情報だけを手がかりに、営業職とAIの距離感を整理します。結論から書くと、置き換わろうとしているのは「営業職」という職種ごとではなく、営業という仕事の中にある個々の作業です。だから対策も、職種を捨てる方向ではなく作業の中身を入れ替える方向になります。
結論|代替されるのは「営業職」ではなく「営業の中の作業」
みなと
「営業はAIに代替される職種ランキング上位」みたいな記事をよく見かけるんですが、あれって本当なんですか? うちの営業部が来年なくなる、みたいな話には全然見えなくて。
りこ先生
その違和感は正しいわ。ああいうランキングの多くは出典が示されていないか、海外の古い推計を要約したものなの。日本の公的な調査を見にいくと、「職種が丸ごと消える」という書き方はどこにもされていないのよ。調べているのはあくまで「どの作業にAIが入ってきたか」。ここが出発点ね。
一次データは「明日置き換わる」とは言っていない
りこ先生
数字を置くわね。総務省「令和7年版 情報通信白書」では、生成AIの活用方針を定めている国内企業は2024年度で49.7%(2023年度は42.7%)。一方でJILPTが2024年5〜6月に約2.2万人の労働者へ行った調査では、「職場でAIが使われている」は12.9%、「自分自身が生成AIを利用している」は6.4%にとどまるの。会社の方針は半分決まっているのに、現場で使っている人は1割いない、という状態ね。
りこ先生
ただし放っておく話でもないの。同じ調査では今後10年以内に自分の職場でAIが導入されると見込む人が55.6%。「もう来ている」ではなく「これから10年かけて来る」と現場は受け止めているわけ。50代にとっては、この10年が定年までの残り時間とほぼ重なるという意味で、他人事にはできない数字ね。
消えるのは職種の看板ではなく、時間の使い道
ユウタ
法人営業の現場にいた感覚で言うと、営業は「動くこと」と「決めること」の混合物なんだ。リスト作り、議事録、見積の下書き、日報——これらは決めることじゃなく動くこと。所感でしかないけれど、営業時間の相当部分はこの「動くこと」に食われていると感じていた。AIが入って先に減るのはポジションそのものよりこの時間で、動くことで評価されてきた人ほど評価の根拠が先に薄くなるんだ。
AIに置き換わりやすい営業の作業/残りやすい作業
みなと
じゃあ、具体的にどの作業から順番に置き換わっていくんでしょう。自分の1日を思い浮かべながら聞きたいです。
置き換わりやすいのは「答えが1つに寄る作業」
判断の分かれ道が少なく、正解らしきものが1つに寄る作業ほど早く置き換わります。逆に、相手や状況によって答えが変わる作業は後回しになる。この線引きで自分の業務を仕分けしてみてください。
| 置き換わりやすい作業 |
残りやすい作業 |
| 見込み客リストの作成・絞り込み |
キーパーソンが誰かを見抜く |
| 商談メモの整理・議事録の清書 |
言われていない不満を拾う |
| 定型的な提案書・見積書のたたき台 |
値引き以外の落とし所を作る |
| メール文面・フォロー文の下書き |
こじれた場面で頭を下げに行く |
| 日報・週報・数値の集計 |
社内の反対を通して条件を取る |
※この仕分けは公的統計の分類ではなく、上記の考え方に沿って本記事で整理した目安です。
残りやすい仕事の正体は「責任を引き受けること」
ユウタ
右側の列を眺めていて気づいたんだけど、残るほうの共通点は「うまくいかなかったときに責任を負う人が必要」ということなんだ。謝りに行く、条件を社内に通す、無理筋を断る。ここは誰かが名前を出して引き受けないと前に進まない。
りこ先生
いい整理ね。JILPTが2026年に公表した企業の事例調査でも、生成AI導入後の変化として「タスクの部分的自動化」「タスクの再編成」「新たなタスクの創出」が挙げられているの。丸ごと消えるのではなく、担当する作業の組み合わせが組み替わる——一次情報が示しているのはこの姿よ。
なぜ50代の営業がいちばん揺れるのか
みなと
同じ営業でも、50代のほうが不安が強いのはなぜなんでしょう。作業が減るなら楽になるはずなのに。
「経験の量」で戦ってきた人ほど直撃する
ユウタ
長く営業をやっていると、「過去の似た案件を思い出せること」が強みになっていく。あのときこう出したから今回もこう、という引き出しだね。ただ、その引き出しはAIがいちばん得意にしようとしている領域と正面からぶつかる。ここに50代のざわつきの正体がある気がしているよ。
りこ先生
OECDの分析をJILPTが紹介した資料でも、生成AIの影響は従来の自動化と対照的で、高スキル層のほうが影響を受けやすい傾向が指摘されているの。「単純作業の人から順に」という昔のイメージのままだと読み違えるわ。
逆に、50代だけが持っている資産もある
りこ先生
ただし同じ調査はリスキリングの参加率が低いことも示しているの。2023年に学び直しをした人は27.1%、そのうちAIに関する学習をした人は6.9%。ここが低いということは、少し動くだけで相対的に目立てるということでもあるわ。
ユウタ
それと、50代の営業には「社内を通した回数」という資産がある。値引きの決裁を取る、無理な納期を工場と交渉する、揉めた案件を上と一緒に収める。この経験は年数でしか積めないし、AIが代わりにやってくれるものでもない。
50代が今からできる3つのこと
みなと
ここまでで状況は分かりました。で、今日から何をすればいいんでしょう。「AIを勉強しましょう」だと漠然としすぎていて動けなくて。
①自分の営業を「作業」に分解して棚卸しする
りこ先生
最初にやるのは勉強じゃなくて棚卸しよ。1週間の自分の行動を書き出して、さっきの表の左右どちらに入るかを仕分けするだけ。左側に何時間使っているかが分かれば、危機感が数字になるわ。
棚卸しの手順(所要30分)
- 直近1週間の予定表と送信メールを開く
- やった作業を10〜15個、箇条書きで書き出す
- 各作業に「答えが1つに寄る/相手で変わる」のどちらかを付ける
- 「答えが1つに寄る」側の合計時間をざっくり出す
- その時間を右側の作業に回すとしたら何ができるかを1行書く
②AIを「使う側」の実績を1つだけ作る
ユウタ
資格を取る必要はないと思っている。職務経歴書に一行書ける事実があればいい。「提案書のたたき台作成に生成AIを導入し、作成時間を短縮した」——これくらいで十分なんだ。大事なのは、使われる側ではなく使う側に回った事実があること。
みなと
会社が業務利用を禁止している場合はどうすれば……。うちも情報漏えいを心配して止まっています。
りこ先生
禁止されているなら絶対に破らないこと。情報通信白書でも、ためらう理由の上位に「効果的な活用方法がわからない」「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」が挙がっているわ。顧客情報を含まない題材で、自分の勉強として触れておくだけでも面接で語れる材料になるの。
③社内でしか通じない経験を、社外の言葉に翻訳する
ユウタ
3つ目がいちばん効くと思っている。長く同じ会社にいると、
実績が社内の言葉でしか説明できなくなるんだ。「〇〇部の案件を通した」では外に伝わらない。金額規模、相手の役職、意思決定に関わった人数——ここに置き換えるだけで伝わり方が変わるよ。書き方は
25年分の職歴を職務経歴書1枚にまとめた方法で実例を出している。
やらないほうがいい対策3つ
不安なときにやりがちな、遠回りの3パターン
- いきなり資格やスクールに申し込む:棚卸しの前に買うと、自分の弱点と関係ない科目に時間とお金を払うことになりやすい。順番は棚卸し→不足の特定→学習
- 職種ごと「AIに強い業界」へ乗り換える:50代で職種と業界を同時に変えるのは負荷が高い。変えるなら片方ずつが原則(参考:IT業界への異業種転職)
- 危機感だけで応募数を増やす:条件を決めずに数を撃つと、書類が通らないたびに自信が削れ、削れた状態で面接に行くからさらに通らない。管理人も同じ悪循環にはまった
不安が消えないときは「市場価値の確認」だけ先にやる
みなと
棚卸しをしても、それが社外で通用するかは自分では判断できない気がします。ものさしがないというか。
りこ先生
そこは正直に「分からない」で正解よ。だからこそ転職するかどうかを決める前に、外の評価だけ聞いてしまうという順番があるの。今すぐ動かないと決めていても、自分の経験が今どのレンジで見られているかを知っておくと、社内での判断も落ち着くわ。
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よくある質問
Q. 50代からAIを勉強しても、若手に勝てないのでは?
りこ先生
勝負するところが違うわ。技術そのもので競うのではなく、「AIが出した案の当たり外れを判断できる」立場を取りにいくの。判断には過去の相場観がいる。ここは経験年数が効く領域よ。
Q. 定年まであと数年です。今さら動く意味はありますか?
ユウタ
定年後も働く可能性があるなら、棚卸しと翻訳は必ず役に立つと思う。再雇用の条件交渉でも業務委託でも、「自分は何ができる人か」を外の言葉で説明できるかが効いてくる。転職しない人にとっても無駄にはならない作業だよ。
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まとめ
この記事の要点
- 公的な一次情報は「営業職が丸ごと消える」とは示していない。示されているのは作業単位の置き換わり
- 活用方針を定めた企業は2024年度49.7%、一方で職場でAIが使われている労働者は12.9%(JILPT・2024年)
- 置き換わりやすいのは答えが1つに寄る作業。残りやすいのは責任を引き受ける仕事
- 50代は「経験の量」が直撃される一方、社内を通した経験とリスキリング参加率の低さが逆に強みになる
- 順番は棚卸し→AIを使う側の実績1つ→社外の言葉への翻訳。資格購入や数撃ち応募は後回しでいい
みなと
「営業がなくなるのか」ではなく「自分の1週間の中身がどう変わるのか」で考えればいいんですね。急に肩の力が抜けました。
りこ先生
最後にひとつ。10年かけて来るものに、今日ぜんぶ答えを出す必要はないわ。ただ、来ることが分かっているなら余裕のあるうちに手を打てる。それが50代の一番の強みよ。
【出典】総務省「令和7年版 情報通信白書」/JILPT 調査シリーズNo.256「AIの職場導入による働き方への影響等に関する調査(労働者Webアンケート)結果」(2024年5〜6月実施・回答者約2.2万人)/同 資料シリーズNo.299/同機構「生成AIが労働市場に与える影響を分析(OECD:2025年3月)」
※本記事は一般的な情報提供であり、個別のキャリア判断を保証するものではありません。数値は執筆時点(2026年8月)の公表資料に基づきます。
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